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 本阿弥書店月刊誌 
「俳壇」 
より

本阿弥書店



滑稽俳壇  2025年1号  八木健 選

四月号から「微苦笑俳壇」は、「滑稽俳壇」に名称が変わっています。
◆滑稽俳壇は今号より二十一年目に入りました!

●特選


 かたくなに守る手書きや文化の日 /白井道義

 手紙でも投句用紙でも、手書きであれば名前を読まずとも字の癖で作者が分かるもの。癖字も悪筆も読み手に作者の個性が伝わる。これがパソコンの文字では判別不能となる。今後は、あえて癖字や悪筆にするアプリも開発されるかもね。





 王選手より案山子が先よ一本足 /村松道夫


 世界最多本塁打記録を持つ王貞治選手は、一本足打法で有名だが、一本足の歴史は案山子の方がずっと先輩である。王選手より案山子に敬意を表したところが俳人ならではの価値観である。やっと評価されたと案山子も喜んでいるだろうね。





 鍋奉行自負し出世に遠くゐる / 柏原才子


 人間の値打ちは、会社や組織の中での課長、部長の役職では決まらない。いかに多くの人に喜ばれる存在であるかということが大事である。従って、鍋奉行たる者は公明正大なる裁きをし、かつサービス精神をいかんなく発揮してもらいたい。





 ●秀逸

寄鍋や眼鏡はづして目玉食ふ
田畑など知らぬ案山子のコンクール
半袖を着て冬に入る温暖化
秋深しSNSと言ふ孤独
名月に虚飾はすべて見透かされ
蛤になりそこねたる雀かな
鮎騙すことが仕事の囮鮎
台風は方向音痴かもしれず

志村宗明
腰山正久
松永朔風
中邑義継
碓井遊子
村越 縁
馬場菊子
曽根新五郎


 ●佳作

村芝居駐在さんが次郎長に
秋暑し予報士煽る寒暖差
味噌煮込み饂飩の味噌は断固赤
出雲まで神を追っかけ神の留守
練り過ぎの句は混沌に長き夜
当事者はなにがなにやら七五三
秋冷や音なく猫は膝の上
ごちそうさまの一言のなき稲雀
新築に呼ばれて誉める鰯雲
行く秋や昭和の雑誌袋綴じ

西尾泰一
中村眞喜男
森 一平
石井 博
あきのさくら
小林浦波
伊藤博康
柳村光寛
内野 悠
平田 秀


【筆まかせ】八木健(滑稽俳句協会会長)近詠

蘊蓄(うんちく)と徳利傾け秋の夜
数へた人がゐるのだらうか千枚漬
食べられぬ野葡萄いくら綺麗でも
人間のいざこざ知らず赤蜻蛉
秋ですね深呼吸より新呼吸

兄弟仲良く太郎柿次郎柿
静止画では無理穂芒の美しき揺れ
散髪を終へし心地かこの刈田
人間の勝手を恨む捨案山子
ヘルスメータは正直者よ豊の秋

ふかし藷食べつつ代用食語る
汗かくおそれ十一月の日向ぼこ
もしかしてストーブリーグも季語なのか
子の温みねんねこの背に奪ひとる
重ね着と厚着どちらも肩が凝る