これまでの滑稽俳句大賞受賞作品 |
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第一回 第ニ回 第三回 第四回 第五回 第六回 第七回 第八回 |
第九回 第十回 第十一回第十三回
第十四回
第十五回
第十六回
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第三回滑稽俳句大賞 |
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金澤健 |
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涼しさを説く高僧の玉の汗
刃傷も恋も進まず菊人形
海水浴子の目じるしの母の尻
我が辞書に「不可能」の文字雁渡る
義士笑めば吉良笑み返す村芝居
生き馬の眼を抜きほっと夜長酒
遊び舟月の監視を逃げきれず
たましひの喜びさうな木下闇
戦跡碑猫にほどよき涼み台
鳶が鷹生むわけもなく桐一葉
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受賞の感想
老後の趣味にと思い、五十歳を期して俳句を始めて、丁度今年が節目の十年目になります。その節目の年に滑稽俳句大賞を頂き、感慨無量です。本当に有難うございます。
私の目標は、山田洋次監督が映像で描いた「フーテンの寅さんの世界」を、俳句という表現手段で描き出したいというものです。「をかしみに透けて見える悲しみ」、「過ぎし悲しみに感じるをかしみ」を、そこはかとなく表現出来ればと考えております。
自分の目標達成の為に、今後共滑稽俳句協会で腕を磨いていきたいと切に願っております。と同時に、「をかしみ、悲しみ一如の句」滑稽俳句を、益々世に広めたいと強く思っております。改めて、有難うございました。
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横山喜三郎 |
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祝はれし赤子を泣かせ武者人形
猪も引き連れ村は市となりぬ
お年玉手にするまでの神妙さ
蜘蛛の囲に護られてをり文化財
懐手顎で自在に指示をする
口つけぬ鍋となりたる茸狩
上機嫌俎上にひびき春うらら
つい本気だして泣かるる歌留多取り
人口が増えしごとくに案山子立つ
祭馬ほかほか糞(まり)も縁起なる
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受賞の感想
驚愕。青天の霹靂。この度の受賞には、全くびっくり致しました。「初夢が正夢となり夢ごこち」、今こんな気持です。有難うございました。
第一回大賞での審査員のコメントに、「滑稽であるとともに上質の俳句作品であること」が強調されており、それ以来、私の心の中では、常に「滑稽と上質」の葛藤が行われてきました。応募作品では度の過ぎた滑稽性をかなり抑えたつもりですが、そうなると本来の私らしさがなくなってしまうというジレンマに陥り、習作の中から十句を選ぶのに四苦八苦しました。今回の受賞で多少なりとも方向性が掴めましたので、これからは「滑稽と上質」の融合を重い課題として、滑稽俳句に挑戦していきたいと思っています。
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倉方稔 |
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初詣延命寺まで足のばし
蛸焼の匂ふ参道初不動
あれこれで会話通ずる春炬燵
地雷なき世を願ひつつ青き踏む
古びとて気品漂ふ享保雛
掘り起こす土偶は巨乳夏来る
対岸に空母停泊蝿たたく
水無月も名水ずらり自販機に
寒稽古負けを認めぬ面構へ
碁敵のその手は食ぬ兎罠
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受賞の感想
この度、滑稽俳句大賞に入賞したとの知らせを受け、私の滑稽俳句が審査された先生方にお認め頂き、嬉しさと驚きが実感となって込み上げて居ります。私は、NHK文化センター横浜ランドマークの「八木健の俳句塾」へ通い、滑稽俳句の面白さ、難しさ、勘所等を、塾生と共に楽しく勉強させて頂いて居ります。入賞は、この俳句塾が有ったればこそと感謝致します。
私は無線技術者なので、ある物を見る時、技術屋特有の、これはどうなっ
ているかと裏側を知りたがる癖が有ります。伝統的な花鳥諷詠の理念の内にも、おかしみ、哀れみ、苦しみ等の事象が潜んでいると考えて居ります。小林一茶翁のような、判りやすく易しい言葉で、滑稽俳句を詠めたらと常々思って居
ります。 |
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麻生やよひ |
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ぽつぺんは鳴らず危うく放屁気味
ひたすらに舌頭千転経よみ鳥
耳の日やイヤホンいづれ補聴器に
剪定のし過ぎ隣家の透けて見え
ふらここを揺らす職なし嫁もなし
水すましくるくるただいま思案中
囮とは知らで遠音の応へをり
内心は褒められたくて山装ふ
蓮の実飛ぶことばかり考えて
橋ライトアップに不眠浮寝鳥
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大城重子 |
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初夢は夫の「ごめん」にとび起きし
「まだ三時か」退屈してる昼炬燵
弛みしをボディスーツに春衣
下山路の百円春菜に杖忘れ
不信心もその気にさせる遍路杖
かたつむり空巣の狙う隙もなし
大根の美肌はきっと泥パック
虫けらと呼ばれて人と癒しおり
不本意な名に憤然とまむし草
雨予報きき耳たてる庭あじさい
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飛田正勝 |
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ああこれが八十路の皺か初鏡
へその緒を成人の日に渡しけり
百均の豆も混りて鬼やらひ
万緑やグリーンガム噛み徘徊す
手を抜かぬ妻の皺の手梅を干す
ケイタイと言へばラジオや敗戦忌
新酒酌む明日はいらない齢かな
ダイエットして貫録の妻の秋
新婚の宿に虫聴くフルムーン
死神の外面に逢ふ去年今年
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野村信廣 |
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遠足の子のしんがりにイクメンも
女房との距離が広がる熱帯夜
川の字に妻を真中に帰省子と
秋深し国語辞典は開いたまま
孫自慢又薬自慢敬老日
仕分けされ首を切られて木の実落つ
天高し家計の悲鳴届かない
政治家の言の葉軽し秋の風
かじられて脛の冷たき足湯かな
客来るとカネが出て行く三箇日
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審査方法と結果 |
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今回の大賞の大きな特徴は、これまでの二句一組から、十句を一組とした作品で審査をするという方法に変更されたことです。応募者数八八名、一〇一組すべてを、無記名で各審査員にお渡しし、審査いただきました。一位から五位までを選出いただき、一位は五点、二位は四点、三位は三点、二位は二点、五位は一点として、集計しました。
その結果、以下の各氏が受賞されました。
最高得点の十七点を獲得したのは、金澤健の作品で、第三回滑稽俳句大賞に決定致しました。
次点は、
十四点の横山喜三郎と、八点の倉方稔でした。
入選は、
六点…麻生やよひ
五点…大城重子、飛田正勝、野村信廣、柳紅生
四点…杉崎弘明、西をさむ
三点…小林英昭、桜井宇久夫、田中時子
二点…飯塚ひろし、伊地知寛
一点…大滝香釈、工藤泰子、壽命秀次、高橋素子
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審査経過と講評 |
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「自然体の笑い」
俳文学者 復本一郎 |
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俳句の「笑い」と川柳の「笑い」の質の違いを、しっかりと認識すべきかと思います。川柳の「笑い」は、貞門俳諧や談林俳諧の系譜の中にある「知」の笑いです。私は、自然体の「笑い」を重視して作品を選びました。
作品「ああこれが八十路の皺か初鏡」は、全十句が、日常生活から掬い取られた自然体の「笑い」の作品です。作品「涼しさを説く高僧の玉の汗」は、その点、やや作られた「笑い」との印象を受けましたが、上手いです。作品、「遠足の子のしんがりにイクメンも」は、素直な作品。作品「括ら
れし大根届く駐在所」も、日常生活の中のほのか
な「笑い」。作品「初夢は夫の『ごめん』にとび起きし」は、作為がやや過多。
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「上質の滑稽味」
本阿弥書店社長 本阿弥秀雄 |
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十句を一組とする審査なので、○印のついたものから上位に推した。一位作品でいえば、「大夕立」、「新聞を」、「剃刀に」、「古文書の」、「カーナビの」などに、押えた表現の奥にある上質の滑稽味を感じ取った。滑稽を追求しながらも、一句を支える季語の働きとリズムの滑らかさを充分に意識している相乗効果によるのだろう。
複数の応募作品に散見された、尾籠な素材やどぎつい表出などは嫌味になるばかりで、逆に滑滑稽味からは遠くなると思われる。 |
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「三位、四位、五位に苦労」
元電通副社長 中村陽三 |
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選考方法が今回から変わりましたので、今回は先 ず、二十位までを選び、その中から上位五句を選びました。上位二十句は比較的簡単に選出出来、上位 二句は自然に決まりました。しかし、それからが大変!三位、四位、五位の決定には思いの外、時間が かかり大苦戦を強いられました。これには何か意味があるのでしょうか。ないようでもあり、あるようにも思われ、次回を楽しみに致します。会員皆様の一層の切磋琢磨を期待します。 |
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「愛すべき人に乾杯」
前愛媛大学学長 小松正幸 |
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「涼しさを説く」の句は、どれも肩肘張らない人間臭さがあって、思わずうなずき苦笑い。一句目、「心頭滅却すれば火もまた涼し」なんて説教しながら汗だくの高僧。三句目、格好つけてもお母さんの大きなお尻は子の安心。四句目、雁の大海を渡るを 見るにつけ、自分はダメな人間よと嘆息する。五句 目、深刻な場面でセリフを間違えて苦笑いすれば、「いいって事よ」と笑み返す吉良役。六句目、今日もまた面倒な社会を上手くこなして、ほっと酒を酌む人。十句目、わが親にしてこの子ありか、と嘆息する人。どれも捨てがたい人情味ある愛すべき人に乾杯する。
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「諧謔と詩情」
結社「八千草」主宰 山元志津香 |
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一位の十句 諧謔の奥に詩情が溢れている。「ひたすらに舌頭千転経よみ鳥」、「ふらここを揺らす職なし嫁もなし」、「内心は褒められたくて山装ふ」、季語の斡旋のよさ、人生の寂、アイロニー。
二位の作品 軽やかな日常性がいい。「春来ると繕う猫の玉三郎」、「七草を此見よがしと妻の打つ」、猫の名のお色気、妻の元気なるほど。
三位の作品 現代的な捉え方がよろしい。「田園調布のTELより石焼芋の声」、「待ちつづけ宵待草は高齢者」、地名と焼芋の対比、叙情的現代老人。
四位の作品 地方色豊かな滑稽性。「祝はれし赤子を泣かせ武者人形」、「猪も引き連れ村は市となりぬ」、折角の端午を泣く児、猪も市に昇格の妙。
五位の作品 幼子を詠む愉快な温もり。「餓鬼大将しやがんで見入る桜草」、「待ち焦がれ睡魔に負けし聖夜かな」、暴れん坊の優しさ。聖夜の可笑しみ。 |
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第三回滑稽俳句大賞総評
「滑稽俳句時代の到来を予感」
滑稽俳句協会会長 八木 健 |
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十句一組での応募規定とした段階で、投句者はあらかじめ絞られた。ある程度の実力がなければ、一定の質を保った十句を揃えることは難しいからである。それが、今回の改正点の狙いでもあった。その狙い通り、レベルの高い作品が多く、選考に苦労した。今回の募集では、ハイレベルな、かなりまとまった滑稽俳句の作品を得た。現在、編纂中の「滑稽俳句大全集」に掲載させていただく予定である。「涼しさを説く」はバラエティーに富んだ作品。「祝はれし」は、ほのぼのした作風、「戀の字の」は艶のある作風がよい。時事俳句的作品などもあり、個性的で新鮮な句が多かった。
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