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これまでの滑稽俳句大賞受賞作品
第一回 第ニ回 第三回 第四回 第五回 第六回 第七回 第八回
第九回 第十回 第十一回第十三回 第十四回 第十五回 第十六回
第六回滑稽俳句大賞
 
愛媛県 日根野聖子

天に何言ひつけに行く揚雲雀
豌豆の筋とるファスナーおろすごと
山中の不発弾なり筍は           
かき混ぜてソーダのため息解放す 
わがままは苦味にも似て夏蜜柑 
カラットに換算新米の輝きを
願ひ事は叶はないこと星祭
とんぼうの群れ飛び静寂汚さざる  
秋茄子や嫁がず産まずですみません  
窓閉じてみても浸み込み虫の声





受賞の感想
「もったいない」はワンガリ・マータイさんによって、「おもてなし」は滝川クリステルさんによって、世界に知られる言葉となりました。日本固有の概念で他の言語に変換できないために、そのままの日本語が世界で使われるのです。「滑稽」も変換しようがありませんから、有名になれば、このままで使われるに違いありません。しかし「滑稽」は、日本人に忘れられようとしています。俳句は、日本の韻文学の歴史の結晶であり、その俳句とは「俳」のある歌、滑稽な句を意味することも知られていません。滑稽の意味は深長で、俳人でさえ、「滑稽」を理解し表現できる人は、ほとんどいません。俳句の様々な分野の中でも、最も難しい滑稽俳句で大賞を受賞したことは、大変な誇りです。「滑稽」を広めるべく、滝川さんにも負けないようなプレゼンの方法を研究しなければと考えております。

 
三重県 小林英昭

仙人のメインディッシュに春霞
いつせいにたんぽぽ笑ふ河川敷
海中をいそぐ海月の三度笠
足取は割れてゐるなりなめくぢら
あめんぼのひらく水上舞踏会
スナップの隅に秋風映り込む
鯔跳ねる出世あきらめたる途端
空を飛ぶ鉄腕アトム空也の忌
すき焼の奉行リコールされにけり
まな板の海鼠小声でケ・セラ・セラ





受賞の感想
柳の下に二匹目の泥鰌はいるか。昨年よりも釣り針を増やして(五作品五十句)その成果やいかにと待っていたところ確かな手ごたえが…。引き具合は昨年(大賞)のものにはおよばないが、それでも型は十分(次点)。二年連続の受章は身に余る光栄、誠にありがとうございます。俳句をやっていて、本当によかったと思います。ちかごろは滑稽俳句に明け暮れる毎日。それこそ、寝てもさめても滑稽、滑稽。頭のてっぺんから足のつま先まで滑稽。これでいいのだとばかり多作多捨をモットーに滑稽俳句に取り組んでいます。さて、次回は釣り針を何本にしようか、いまから手ぐすねを引いております。

 
長野県 横山喜三郎

ぬけぬけと居留守をつかふ蟻地獄
老いの家どたばた揺らし夏休み
濡れ場にも水を差しをり老菊師
哲学の道に焼芋頬張りて
古代米とふ新米の届きけり
遊ばせるつもりがはまり加留多とり
マスクしてだれが誰やらすれ違ふ
廃村にぽつねんとして雪女
彼岸会や国政も説く若尼僧
活断層ゆらす乱痴気花筵





受賞の感想
「まさかとふ坂を登りて春爛漫」
 入賞することができ苦労のし甲斐があったと本当に嬉しく思っております。この頃、微苦笑俳壇にも会報にも入選することが少なくなり、スランプ気味でしたが、大きな張り合いになりました。私は元々、駄洒落・ユーモア・滑稽など冗談を言うのは好きな方ですが、それを俳句と結び付けるのは別問題です。選者の先生方の言われる「上質な滑稽味」をいかに一句の中に取り込むか、四苦八苦します。微苦笑俳壇や会報の入選句を見て、皆様の着想の特異さ、素晴らしさにいつも「やられたー」と感嘆するばかりです。そんな数々の名句を見てきたからこそ、今回の入賞につながったと、心から皆様に感謝しております。

 
千葉県 原田 曄

猫がねこ咥へていそぐ春の暮
まだ生きて動く頭よ日脚伸ぶ
万愚節別冊付録正誤表
半身を砂に投げ出す浅蜊かな
かつと口開けて閻魔の睨む蝿
寝かせおく座りたがらぬラ・フランス
大根に道を教はる街の畑
蓮根堀両手もて抜くおのが足
大寒波スマートフォンが身震す
水金地火木土天海独楽回はる





受賞の感想
はからずも次点にお選び頂きうれしく思っております。ありがとうございました。滑稽俳句と云えば、藤田湘子の遺句集『てんてん』のあとがきに、湘子はかねてから「破顔一笑」の句を作りたいと云っていたことを小川軽舟が紹介していたことを思い出します。一読して爆笑の句を俳句形式の格調で読みたいと思っているのですが、なかなか思うような作品ができません。この頃、人は大真面目になればなるほど、端からみれば実に滑稽に写ることを発見しました。しばらくは、ここを突破口にして励んでみようと思っています

 
東京都 池田亮二

花の世をとどのつまりの無位無官
老いを追う恍惚というゼノンの矢
年忘れ逃げた女房を惚気(のろけ)つつ
三毛悠々トラ蹌踉と朝帰り
老呆の散歩は道に迷うまで
春日遅々モンローウォークの浮かれ猫
歯を抜いてガッツポーズの歯科医かな
老骨の右翼と左翼飲み仲間
極楽へツアーで行くや遍路道
団塊っ子だってねぇ全共闘育ちよと日向ぼこ



 
徳島県 立花 悟

妻今日も新年会へタチツテト
世を嘆く世代が囲む牡丹鍋
初鴉せめて白袋はきなはれ
湯豆腐やインプラントに生かされて
春を待つ役行者の下半身
水仙を拾う空缶愛でる路地
近況も述べて無名の賀状くる
戒名は浮き世の位寒の月
喫煙者外へ木枯し紋次郎
浄財の抽出し軽し冬茜



 
福岡県 赤松桔梗

初時雨ボス猿不意に家出すと
小春日や家出ボス猿帰還すと
初雪や復帰ボス猿又家出
小寒やボス猿未だ帰還せず
大寒やボス猿遂に死の判定
すき焼きや結婚記念日又忘れ
ジャンボくじ末等十枚大当たり
婚四十妻のごまめはまだ未熟
年賀メールハガキでくれと返信す
初売りのチラシのトップがお墓だぜ



 
愛知県 城山憲三

禿頭を嫌ふかのごと籠枕
鬼嫁は外とも聞こゆ追儺かな
漱石を枕の不覚昼寝起
軽暖や乙女の四肢に熱視線
浅酌と云ひたるはずの花の宴
社長とも云はれ場末のおでん酒
影二ついつか一つに藁塚(にお)の陰
怒りてもやがてやさしき雪だるま
駐在の自慢は一つ島椿
野仏に微笑み返す遍路かな



 
神奈川県 竹澤 聡

吊橋の揺れただならず冴返る
ドロップの赤舐めてゐる春の風邪
山笑ふ調子の悪い自動ドア
あくまでも丈夫な金庫秋に入る
不人気の落語家みみず鳴きにけり
審判に叱られてゐる秋暑かな
天高し補欠選手もいきいきと
テーブルにからだ預けて秋を寝る
着ぶくれや彼女もとよりFカップ
ロボットに掃除をまかせ日向ぼこ



 
東京都 山本 賜

おとなしい犬をひつぱるサングラス
マスクしてマスクの人を訝む
敬老日膝の痛みを分かち合う
気が付いて背すじを伸ばす冬講座
コスモスに呼ばれ離宮の客となる
七人にぴつたり分けたひなあられ
ゴッホが描いてもじやがいもはじやがいも
ウリは月高層階のレストラン
点呼する声嗄れている紅葉狩
北狐観光バスを止めにけり



 
審査方法と結果

十句を一組とし、一組を一作品として、十句すべての出来栄で評価、審査を行いました。応募者総数六十九名、七十五組すべての作品を、無記名で各審査員にお渡しし、審査いただきました。一位から五位までを選出いただき、一位は五点、二位は四点、三位は三点、二位は二点、五位は一点として、集計しました。

その結果、以下の各氏が受賞されました。
最高得点の十三点で大賞を獲得したのは、日根野聖子でした。

次点は、
九点の小林英昭、八点の横山喜三郎、七点の原田曄です。

入選は、
五点…池田亮二、立花悟
四点…赤松桔梗、城山憲三、竹澤聡、山本賜
三点…岩城順子、小林英昭A、小林英昭B、寿命秀次、田村米生
     寺田秋悦
二点…金澤健、白井道義、柳紅生
一点…笠政人、小林英昭@、森泉休

 
審査経過と講評
チャレンジ精神に拍手
俳人協会「俳句文学館」編集長  上谷昌憲

 正直なところ、滑稽俳句のレベルの高さに圧倒されつつ選をさせて頂いた。どのページからも卓抜な句が浮かび上ってきた。そこでハードルを高くせざるを得なかった。目盛りは無論私好みである。

 計らいのある句、予め答の割れている句は、思い切ってパスした。また造語や流行語の使用も、それが詩語として昇華されているかどうかを考慮した。言葉の面白さだけで、実は理屈を述べているだけという句は採らなかった。本歌取りの作品も散見されたが、本歌の手の内から脱していない句は避けた。それを逆手に取って、全く違った世界を創造して欲しかった。俳句と名が付く限り、季語は絶対条件である。季語をどう機能させるかは、滑稽俳句作家のセンスの問題に関わってくるだろう。

 総じて自虐的な作品が多かったが、昨今の自分を潜り抜けていない(体験の乏しい)俳句よりも、滑稽俳句のチャレンジ精神に心から拍手したい。
 
身近に発見したおかしみや人情味
前愛媛大学学長  小松正幸

 今回もまた秀作揃いで選考には迷いに迷った。最初二、三十を選ぶのはいいが、それからが大変。時を置いて何回も読み直し、ようやく決断したような次第である。しかし、選ばなかった組のなかにも秀句が一、二必ずあって、棄てがたい思いは残ったままである。最終的に選にもれた中の秀句を選んで十句並べたらどうなるだろうか。

 一位に選んだ作品はいずれの句も、作者自身のごく身近な事象のなかに発見したおかしみや人情味を素直に詠んだのである。第一句、雲雀が空高く舞い上がるのは、天に何か言いつけに行くんだったのか、第三句、筍の不気味さは不発弾みたいだからなのか、その発見の独創性と衒いのない表現に感服した。
 
見立ての面白さ
結社「春耕」編集長  蟇目良雨

 一位作品は、見立ての面白さに溢れている。「仙人のメインディッシュに春霞」「海中をいそぐ海月の三度笠」「足取は割れてゐるなりなめくぢら」「まな板の海鼠小声でケ・セラ・セラ」など楽しくさせられる。これが滑稽俳句であろう。類想が無いところがよい。二位「ロボットに掃除をまかせ日向ぼこ」。時代が大きく変わる予感がする。三位「糸遊が過去と未来を行き来する」。過去と未来を行き来する糸遊には恐れ入った。四位「水金地火木土天海独楽回はる」。外された冥王星に思いを馳せる。五位「妻今日も新年会へタチツテト」。発ちつてとの語感が新鮮。

 
時代を捉える
俳人・女優  冨士眞奈美

 十句すべての出来栄えを評価せよとの御指示がありましたが、全作者すべて巧者曲者で、御指示に従うことは難しく、やはり突出して好きな句を見つけた時の喜びには勝てず、かなり片寄ってしまったと思います。皆様まことにお上手なので、仕方ありません。一位に戴いた「花の世をとどのつまりの無位無官」の作者は、これからは俳句人口が益々増える団塊世代のお生まれでしょう。時代の特徴を詠み込まれた作品でとてもいいと思いました。二位の「初時雨ボス猿不意に家出すと」。サルの名前は「ベンツ」ですよね。ニュースを追ったリポートが意表をつき、更に締めの句がグッと効いてます。三位「天に何言いつけに行く揚雲雀」は、一、二、九句目が大変良かったです。四位「初蝶のとつてはならぬ躾糸」にはヤラれました。五位「うんこのように生まれ長寿や紅ちょろぎ」には、金子兜太先生のようで、敬意を表します。その他に、「紙魚喰ひの暗号文だワトソン君」に大いに魅力を感じたことを特筆致します。

 
ユーモアと詩情
本阿弥書店社長  本阿弥秀雄

 今回も優れた応募作が多々あったが、十句一組なので、一、二句突出していても、その他が平凡なものは選外にした。また滑稽が主眼の作品といえども、重要な構成要素である季語の扱い方、置き方がより適切かどうかを検討し、新仮名遣いまたは旧仮名遣いのいずれかにきちんと統一されているかなども評価の基準とした。順位上位の作品はそれらをクリアし、なおユーモアと詩情に溢れており、刺激を受けつつ楽しく読むことができた。

 

第六回滑稽俳句大賞総評

「直感力」「機智」「洞察力」「意外性」
滑稽俳句協会会長  八木 健

入賞した四名の作品の第一句を、滑稽俳句術で分類してみたい。大賞の「天に何言ひつけに行く揚雲雀」、これは作者の直感力であり、それがすべてと言ってよいだろう。次点の「仙人のメインディッシュに春霞」、これは写生句ではない。「仙人は霞を食う」から「機智」が主導した一句である。「ぬけぬけと居留守をつかふ蟻地獄」、この句は写生から抜け出て、この巣の主は巣の何処かに隠れて姿を見せないが、これは居留守だろうと看破したものである。こういう句を作るには「洞察力」が必要となる。「猫が猫咥へていそぐ春の暮」、この句は日常の身辺で見つけた出来事である。人間とは違い、吾子を「咥へる」という意外性が、この句に驚きとなって描かれて「独自性」の光る作品となった。